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昼間には花見客がごった返し、去年にはジローと岳人が行方不明になるという最悪な事態に陥ったため、人が少ない夜に花見をすることにした。
「もう春ですけれど、結構肌寒いですね。」
氷帝テニス部で、二番目に背の高い長太郎は、カーディガンを羽織っているにも関わらず、眉を潜めて口にした。
「長太郎はまだいいだろ。俺は半袖だぜ?おい跡部、お前カーディガン貸せよ。」
宍戸は長太郎を見遣ってから、跡部の羽織っているカーディガンを掴む。
「あかんで、宍戸。それ俺のやし。跡部が寒い言ったから貸しとるんよ。」
そういうと、忍足は跡部の身体を抱き寄せ、耳元に、
「俺の体温であっためたるから、カーディガン宍戸に貸してええ?」
と、問い掛けるや否や、いきなり裏拳をかます跡部だったが、それは簡単に忍足の手によって阻止された。
「何言ってんだアーン?」
跡部はそんなこと言ってると、置いて行くぜ?と続ける。
「そうですよ、変tいや、忍足さん。ただでさえ夜なのにそんなこと言ったら本当の変態になりますよ、あ、言っちゃった。」
と、次期部長日吉若は厳しいツッコミを入れた。
「わざとやろ?わざとにしか聞こえへんで?日吉。」
と、言うがそれでも跡部の身体を離すことはない。
「あっ!もうすぐ着きますよ!」
先頭を歩いていた長太郎が見えてきた桜の木を指差した。
「よっしゃ!全然人いないじゃん!」
岳人はそう言うと、全速力で駆けて行く。
「体力ないんだからそんなに走ると、後から大変だぞー!」
と、宍戸は注意をしたが、岳人には届かなかった。
ジローは最初からずっと樺地の背中で寝ていて、起きる気配がない。
大きな桜は満開で、月明かりに妖しく紅の色彩を暗闇に映している。
流石の花見客も、午前2時を回った今は誰もいない。
「今日は、無事に花見が出来そうだな!」
宍戸は安心して、シートを敷きはじめた。
「いや、わかりませんよ。向日さんとかははしゃいでどっか行ってしまうとか、有りそうですし。」
そう言いながら、日吉はシート敷きを手伝う。
「ま、その時はその時だな。」
宍戸はにっと笑って、シートに杭を刺す。
「よし。完了!!おーい、おまえら!花見の準備出来たぞ!」
宍戸は大きな声でみんなを呼んだ。
「そんなに大きな声で言わなくても聞こえるっちゅーねん。」
忍足は岳人の首根っこを掴んでまるで猫のようにして連れて来た。
「侑士~痛いんだけど。離して!」
岳人は忍足の手から逃れるために空中で暴れる。
「あー分かった分かった。離すから落ち着きや。」
そう言って岳人を下ろす。
「まったく、全然夜中ってテンションじゃねぇな。」
跡部は、呆れたようになぁ樺地?と、続けた。
それに樺地はウスと、だけ答えた。
「あの、皆さん。花火持ってきたんですけど、やりませんか?」
長太郎はバッグの中から大量の花火を出してきた。
「春なのに花火かよ。」
宍戸は苦笑しながら花火を一本取った。
「ジローさん、花火無くなりますよ。」
日吉はいつまでも寝てるジローを起こす。
「んぇ…?花火…?」
ジローは寝ぼけつつも、花火を受け取り火をつける。すると、先端から黄緑色の光の束が辺りを照らした。
「おぉ!マジマジ綺麗!!」
ジローは、一気に目を見開いて、光に魅入っている。
「春に花火もいいな。」
跡部はまんざらでもないような顔をしながら花火を楽しんでいた。
「景ちゃん花火知っとったんか。なんや以外やなぁ。」
忍足は2本花火を持って来て、1本を跡部に渡す。
「あぁ、一回だけ夏にやったことがある。もう10年も前だ。」
「そうなんか。」
10年前って景ちゃん4歳やん…絶対かわええやろ!
「おい。やけどするぞ?」
「あ、あぁせやね。」
跡部は忍足に渡された1本の線香花火を動かさず、じっと火の玉を見ていた。
そんな跡部は、いつも以上に艶っぽく見え、忍足の理性を崩していく。
「景ちゃん。こっち向いて?」
「あん? なんだょ…ンっ……」
忍足は、彼が振り向いた瞬間に、口づけ、深いものに変えてゆく。やがて、線香花火の火の玉が、ジッと音を立てて地面へと落ちた。
「おした…り……ゃめ…ん……ふっ」
やっと解放された跡部の息は乱れ、熱を帯びている。
「なんで?」
「誰かに見られたらどうすんだよ…っ」
「大丈夫やっ『侑士ー!跡部ー!ロケット花火やるから来いよー!!』なかったみたいやな」
「当たり前だ。行くぞ。」
さっさと行こうとする跡部の腕を掴み、自分の方へ引き寄せ、
「続きはまた後で。覚えときや?」
と、囁いて、先に行ってしまった。
「帰してくれねぇんだよな。あぁなると…」
跡部は彼を追うようにしてみんなのところへ走っていった。
「よし。準備出来たな。着火するぜ?」
そして、宍戸はマッチを擦り、導火線に着火する。みるみるうちに導火線が短くなり、花火が入っている筒に入る。
次の瞬間、筒の中からボン!と光が飛び出した。
跡部達は、その光の軌跡を辿って、空を見上げる。花火が開いた直後、ドンという音が空気を揺らした。
開いた花火は、赤とピンクの火玉で、まるで夜の空に、大輪の桜が咲いたようだった。
「これはいいな!まさに夜桜!」
「火ですけれどね。」
宍戸は空を見上げ、満足そうに微笑んだ。が、日吉はつまらなそうにぼやいた。
その後は、宍戸と鳳が持ってきたおはぎを桜を楽しみながら食べていた。
この夜は、春一番の思い出になっただろう。
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